運用リターンと不確実性の扱い
最終更新: 2026-07-26シミュレーションで最も嘘をつきやすいのが運用です。毎年きっちり同じ利回りで増える前提の一本線は、計算としては正しくても現実には起こりません。そこでマネシムは一本線に加えて、リターンが年ごとに散らばる前提で多数回の試行を回し、結果が「どれくらいの幅に散らばるか」を出しています。この記事ではその前提と計算方法を説明します。
想定利回りの初期値
初期値は年4%。全世界株式インデックスの長期的な期待リターンとして語られる水準から控えめな側に置いた値で、これは予測ではなく計算の出発点として置いた仮定にすぎません。過去の実績がそのまま将来に続く保証はありません。
インフレ率の初期値は年1%。支出をインフレで膨らませるかどうかは設定で切り替えられます。
利回りは税引き前の値です。課税口座で運用した場合の税金は資産の取り崩しや評価の段階で別に扱っていて、NISA・iDeCo の非課税の扱いについては別記事で説明しています。
散らばりは「リスク水準」の3択で決める
散らばり具合は標準偏差(σ)で表します。ただ、これを直接入力できる人はほとんどいません。そこでポートフォリオの姿を3つから選んでもらい、その選択からσを決めています。
リスク水準とσ(年次リターンの標準偏差)
| ポートフォリオ | σ(%) |
|---|---|
| 株式中心 | 18 |
| 株式と債券が半々 | 10 |
| 債券中心 | 6 |
この選択が変えるのは散らばりだけです。表の数字は主要な資産クラスの年次リターンの標準偏差として一般に使われる代表値の目安で、平均のほうは想定利回りの側で決めます。それでも同じ想定利回りのまま株式中心を選べば、良い結果と悪い結果の幅は大きく広がります。
この選択はプランには保存されません。前提を変えて見比べるための一時的な設定として扱っています。
モンテカルロ法の計算
手順はこうです。毎年のリターンを分布から乱数で引き、100歳までのシミュレーションを丸ごと1回分回す。これを1000回繰り返し、指定した年齢時点の総資産がどう散らばるかを集計します。
各年のリターンは対数正規分布から引きます。1年の下落が全損を超えない、つまり運用資産そのものがマイナスになる値を引かないという性質を、分布の形そのもので自然に満たしたいからです。
r = exp(N(mu, sigma)) - 1
mu = ln(1 + 想定利回り) - sigma^2 / 2muからsigmaの2乗の半分を引いているのがポイントで、この補正をしないと散らばりを大きくするほど平均的な結果が勝手に上振れしてしまいます。補正することで、試行全体の幾何平均が設定した想定利回りに一致します。σをゼロにすれば、全試行が一本線に重なります。
乱数は自前の擬似乱数生成器を使い、シード値を固定できるようにしています。同じ入力なら同じ結果です。テストで結果を固定できますし、利用者から見ても操作するたびに数字が変わることがありません。
「尽きた試行」を金額の分布に混ぜない
ここが最も間違えやすい部分です。マネシムは、モンテカルロの試行を次の2つに分けて集計しています。
- 評価年齢までに資産が尽きた試行 → 「何歳で尽きたか」の分布として集計
- 尽きなかった試行 → 「いくら残ったか」の金額分布として集計
これを1つの金額分布にまとめてはいけません。資産が尽きた試行の総資産は、破綻したあとも支出を引き続けた結果の巨大なマイナス値で、着地額として何の意味も持たないうえに分布の左端を極端に押し広げるので、まともな試行まで全部いちばん下の区間に潰れてしまいます。
ヒストグラムの区間幅も等間隔にはしていません。対数正規分布の結果は右に長い裾を持つので等間隔で区切ると裾が必ず潰れてしまい、そのため半桁ずつ(1000万・3000万・1億…)の刻みにしています。
尽きなかった試行だけで見た下位パーセンタイルは、評価年齢を変えると単調に動きません。厳しい試行が「尽きた側」へ移るほど、残った試行の下位が押し上げられるからです(生存者バイアス)。年齢をまたいで下位の値だけを比べるときは注意が要ります。
不確実性の想定との違い
グラフに表示できる「不確実性の想定」(帯)は、想定利回りを上下にずらした場合の推移を重ねたもので、1つのプランから自動で作られ、前提の感度を見るのに向いています。ただし帯が表せるのは平均の上下だけ。暴落が起きる順番のような時間的な要素は表せません。
順番も効きます。同じ平均リターンでも、資産を取り崩し始めた直後に大きな下落が来るのと十分に増えたあとに来るのとでは、結末がまったく違います。これをシークエンスリスクと呼びます。モンテカルロは各試行で順番がばらばらに決まるため、このリスクが自動的に織り込まれます。前提の感度を見たいときは帯、順番の運まで含めた幅を見たいときはモンテカルロ。そういう使い分けです。
この計算の限界
次の点は計算に反映していません。結果を読むときはこの前提を踏まえてください。
- 各年のリターンは互いに独立に引いています。現実の市場に見られる平均回帰やボラティリティの持続(荒れた年の翌年も荒れやすい)は再現していません。
- リターンの分布は期間を通じて一定です。年齢に応じてポートフォリオを債券に寄せていくような運用は表現できません。
- σは資産クラスごとの代表値であり、実際に保有している商品の実績値ではありません。
- 為替の変動を独立の要因として持っていません。外貨建て資産の値動きは想定利回りとσに含まれているものとして扱います。
- 過去の統計から置いた前提であり、将来を予測するものではありません。ここで出る確率は「この前提が正しければ」という条件つきの数字です。
出典
- 金融庁「はじめてみよう! NISA早わかりガイドブック」
長期・分散投資のリターンの散らばりに関する一般的な説明
- 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)「基本ポートフォリオの考え方」
資産構成とリスクの許容幅の考え方(公的年金積立金の運用)
関連する考え方
本記事および本サービスの計算結果は、公的統計と一般的な制度に基づく概算であり、特定の金融商品の購入や投資判断を勧めるものではありません。税制・社会保障制度は改正されます。実際の手続きや判断にあたっては、一次情報および専門家にご確認ください。