運用リターンと不確実性の扱い

最終更新: 2026-09-17

シミュレーションでいちばん嘘をつきやすいのが運用です。毎年きっちり同じ利回りで増える一本線は、計算としては正しくても現実には起こりません。そこでマネシムは一本線に加えて、リターンが年ごとに散らばる前提で試行を繰り返し、結果がどれくらいの幅に散らばるかを出しています。置いている数字と計算の手順、そして含めていないものを、この記事で公開します。

採用している代表値

リスク水準の3択と、そのときの想定利回り・σ(年率・%)

ポートフォリオ想定利回りσ(標準偏差)
株式中心518
株式と債券が半々510
債券中心56

3択で変わるのは散らばり(σ)だけです。想定利回りは3つとも同じ初期値で、利用者が自分で変えられます。利回りは税引き前の値です。

この記事の内容

想定利回りの初期値は、語られる幅の下半分に置いている

上の表の想定利回り、年5%が初期値です。全世界株式インデックスの長期的な期待リターンとして語られるのは、おおむね年4〜7%のあたり。その下半分を採りました。相談の前提確認でも同じ年5%を目安として出しています。予測ではありません。計算の出発点として置いた仮定で、過去の実績がそのまま将来も続く保証はどこにもないので、自分の考えに合わせて入力欄で変えてください。

インフレ率の初期値は年2%で、率は支出の欄で変えられます。インフレで膨らむのは生活費と養育費だけで、家賃・ローン返済額・保険料・学費・旅行娯楽は入力した金額のまま計算します。

利回りは税引き前です。課税口座で運用したときの税金は、取り崩しで売却するときに売却益へ課す形で別に扱っています。NISA・iDeCo の非課税の扱いは別の記事で説明しています。

散らばりは3択で決め、σだけを変える

散らばりの大きさは標準偏差(σ)で表します。ただ、σを直接入力できる人はほとんどいないので、投資の欄の「運用リスクの大きさ」でポートフォリオの姿を3つから選んでもらい、その選択でσを決めています。既定は「試算しない」で、選んだときだけ計算が走ります。上の表のσは、主要な資産クラスの年次リターンの標準偏差として一般に使われる代表値の目安です。

この選択で動くのはσだけです。平均は動きません。それでも同じ想定利回りのまま株式中心を選べば、良い結果と悪い結果の幅は大きく広がります。

この選択はプランには保存されません。前提を変えて見比べるための分析設定として、使っているブラウザにだけ残ります。

モンテカルロ法は毎年のリターンを引き、1000回繰り返す

手順はこうです。毎年のリターンを分布から乱数で引き、100歳までのシミュレーションを丸ごと1回分回す。これを1000回繰り返し、評価する年齢の時点の総資産がどう散らばるかを集計します。評価する年齢は、設定の「何歳までを見るか」と同じ値です。

各年のリターンは対数正規分布から引きます。理由は一つ。1年の下落が全損を超えない、つまり運用資産そのものがマイナスになる値を引かないという性質を、分布の形そのもので自然に満たせるからです。

r = exp(N(mu, sigma)) - 1

mu = ln(1 + 想定利回り) - sigma^2 / 2

肝は、muからsigmaの2乗の半分を引いているところです。この補正がないと、散らばりを大きくするほど毎年のリターンの平均が勝手に上振れしてしまい、補正を入れることで各年のリターンの平均(算術平均)が設定した想定利回りに一致します。ただし中央の試行の伸びは想定利回りよりsigmaの2乗の半分ぶん低くなるので、σが大きいほどモンテカルロの中央値は一本線のグラフより下に来ます。σをゼロにすれば全試行が一本線に重なります。

乱数は自前の擬似乱数生成器で、シード値は固定です。同じ入力なら同じ結果。テストで結果を固定できますし、利用者から見ても操作するたびに数字が変わることがありません。

「尽きた試行」は金額の分布に混ぜない

ここがいちばん間違えやすいところです。マネシムは、モンテカルロの試行を次の2つに分けて集計しています。

  • 評価年齢までに資産が尽きた試行 → 「何歳で尽きたか」の分布として集計
  • 尽きなかった試行 → 「いくら残ったか」の金額分布として集計

この2つを1つの金額分布にまとめてはいけません。資産が尽きた試行の総資産は、破綻したあとも支出を引き続けた結果の巨大なマイナス値で、着地額として何の意味も持たないうえに分布の左端を極端に押し広げるので、まともな試行まで全部いちばん下の区間に潰れてしまいます。

ヒストグラムの区間幅も等間隔にしていません。対数正規分布の結果は右に長い裾を持つので、等間隔で区切ると裾が必ず潰れてしまい、そのため半桁ずつ(1000万・3000万・1億…)の刻みにしています。

尽きなかった試行だけで見た下位パーセンタイルは、評価年齢を変えても単調には動きません。厳しい試行が「尽きた側」へ移るほど、残った試行の下位が押し上げられるからです(生存者バイアス)。年齢をまたいで下位の値だけを比べるときは注意が要ります。

「不確実性の想定」の帯とは役割が違う

グラフに表示できる「不確実性の想定」(帯)は、想定利回りとインフレ率を上下にずらした場合の推移を重ねたもので、1つのプランから自動で作られ、前提の感度を見るのに向いています。ただし帯が表せるのは平均の上下だけ。暴落が起きる順番のような時間の要素は表せません。

順番も効きます。同じ平均リターンでも、資産を取り崩し始めた直後に大きな下落が来るのと、十分に増えたあとに来るのとでは、結末がまったく違います。これをシークエンスリスクと呼びます。モンテカルロは試行ごとに順番がばらばらに決まるため、このリスクが自動的に織り込まれます。前提の感度を見たいときは帯、順番の運まで含めた幅を見たいときはモンテカルロ。そういう使い分けです。

この計算の限界

次の点は計算に反映していません。結果を読むときはこの前提を踏まえてください。

  • モンテカルロの試行では暴落シナリオを外しています。暴落の時期を決めて置く見方と、順番を乱数に任せる見方は混ぜていません。
  • 各年のリターンは互いに独立に引いています。現実の市場に見られる平均回帰やボラティリティの持続(荒れた年の翌年も荒れやすい)は再現していません。
  • リターンの分布は期間を通じて一定です。年齢に応じてポートフォリオを債券に寄せていくような運用は表現できません。
  • σは資産クラスごとの代表値で、実際に保有している商品の実績値ではありません。
  • 為替の変動を独立の要因として持っていません。外貨建て資産の値動きは、想定利回りとσに含まれているものとして扱います。
  • 過去の統計から置いた前提で、将来を予測するものではありません。ここで出る確率は「この前提が正しければ」という条件つきの数字です。

出典

関連する考え方


本記事および本サービスの計算結果は、公的統計と一般的な制度に基づく概算であり、特定の金融商品の購入や投資判断を勧めるものではありません。税制・社会保障制度は改正されます。実際の手続きや判断にあたっては、一次情報および専門家にご確認ください。