東京と地方、生活費はほんとうに違うのか(物価・収入・車で分解する)
最終更新: 2026-09-07家賃の明細を見るたびに、地方へ移れば楽になるのではと考える。そう口にすると「物価が安いから浮くよ」という声と、「車が2台いるし給料も下がるよ」という声が同時に返ってきます。どちらも正しい。困るのは、自分の家計ではどちらが勝つのかを誰も教えてくれないことです。総務省・厚生労働省・自動車検査登録情報協会の数字を並べてみると、勝負を決めていたのは物価の高さではありませんでした。収入を保てるかと、車が何台いるか。この2つです。
この記事の結論
- 物価そのものの差は総合で8%。東京都104.0に対して最も低い群馬県が96.2で、月30万円の暮らしなら差は月2万円強にとどまる。
- 差の半分近くは家賃。東京で家賃12万円の暮らしは、住居の指数が最も低い地域なら月7.7万円相当で、年に51.6万円。これが移住で下がる金額の本体になる。
- 転職して地域の賃金水準になると、手取りは年64.9万円減る(所定内給与は東京都403.7千円、全国計330.4千円)。家賃で浮く51.6万円より大きい。
- 車は1台で年60.7万円、2台なら年121.4万円。世帯当たりの普及台数は東京都0.410台、福井県1.685台。この台数の差が、そのまま固定費の差になる。
- よくある形(転職して収入減・車2台)では年134.7万円の悪化。収入を保って車なしなら年51.6万円の改善。同じ「地方移住」でも、収入と車でここまで振れる。
この記事の内容
- 物価そのものの差は8%しかない
- 差の中身はほぼ家賃。年に51.6万円
- 家賃で浮く51.6万円を、手取りの差が食う
- 車が1台増えるごとに年60.7万円
- 検証記録: 同じ世帯を3通りの移住で引き比べる
- 自分の場合はどうか。確かめるのは4つ
物価そのものの差は8%しかない
総務省は都道府県ごとの物価水準を、全国平均を100として毎年公表しています。2024年の結果を、高いほうと低いほうから抜き出します。
消費者物価地域差指数の総合(2024年・全国平均=100)
| 都道府県 | 指数 |
|---|---|
| 東京都(最高・12年連続) | 104.0 |
| 神奈川県 | 103.3 |
| 鹿児島県 | 96.4 |
| 群馬県(最低) | 96.2 |
いちばん高い東京都と、いちばん低い群馬県。比は1.08倍。月30万円で暮らしている人が同じ暮らしをそのまま群馬県へ持っていったとしても、家計全体で見た差は月2万円強で収まってしまいます。「東京は物価が高い」という肌感覚に比べると、ずいぶん小さい数字のはずです。では、あの肌感覚はどこから来るのか。答えは家賃です。
この指数の「総合」と「住居」は、持ち家に住む人の家賃相当額(帰属家賃)を含まないので、そのぶん賃貸で暮らす人の実感に近い指標になっています。
差の中身はほぼ家賃。年に51.6万円
東京都の総合指数は全国平均を4.0上回っていて、そのうち1.97が住居の寄与です。半分近くが家賃。費目ごとに最も高い県と最も低い県を並べると、この偏りはもっとはっきり見えます。
10大費目別の地域差(2024年・全国平均=100)
| 費目 | 最も高い | 最も低い |
|---|---|---|
| 住居 | 東京都 127.2 | 岐阜県 81.3 |
| 教育 | 大阪府 125.1 | 富山県 78.8 |
| 光熱・水道 | 北海道 119.6 | 大阪府 87.0 |
| 食料 | 沖縄県 106.7 | 長野県 95.8 |
住居は東京都と岐阜県で1.56倍、教育は大阪府と富山県で1.59倍と大きく開く一方で、食料は約1.11倍にとどまります。光熱・水道は向きが逆で、東京都は全国平均を下回り(寄与度-0.31)、最も高いのは北海道です。「地方は光熱費も安いはず」と思って寒冷地へ移ると、ここだけは上がります。
指数を家賃に直すと、月いくら下がるのか
住居の指数をそのまま家賃に当ててみます。東京で家賃12万円の暮らしは、住居費が最も低い水準の地域なら月7.7万円相当。年に51.6万円。移住で下がる金額の本体は、ほぼこの数字だと考えてよいでしょう。
12万円 × 81.3 ÷ 127.2 ≒ 7.7万円/月
住居の地域差指数を使った換算。実際の家賃は、同じ県内でも駅距離・築年で大きく動く家賃で浮く51.6万円を、手取りの差が食う
支出だけを比べていると、移住はいつでも得に見えます。収入を入れると景色が変わる。賃金の地域差は物価の地域差より大きく、2024年の賃金構造基本統計調査を見ると、一般労働者の所定内給与額は東京都が月403.7千円、全国計が月330.4千円で、全国計を上回る都道府県は4つしかありません。
所定内給与からの手取り概算(賞与を含まない)
| 東京都水準 | 全国計水準 | |
|---|---|---|
| 所定内給与 | 月403.7千円 | 月330.4千円 |
| 額面年収 | 484.4万円 | 396.5万円 |
| 手取り年収(概算) | 378.9万円 | 314.0万円 |
手取りの差は年64.9万円。さきほどの家賃差51.6万円を上回ります。同じ仕事を地方で探す形の移住だと、家賃で浮いた分は収入減が食い切ってしまう。勤務先を変えずに住む場所だけを変えられる働き方なら、家賃差はそのまま手元に残る。第一の分岐点は、ここです。
この換算は所定内給与を12倍しただけで、賞与を含めると差はさらに開きます。実際に判断するときは、転職先が提示した年収をそのまま入れて計算してください。
車が1台増えるごとに年60.7万円
移住の試算からほぼ必ず抜け落ちるのが車です。世帯当たりの普及台数を都道府県で並べてみると、その地域差は物価や賃金の比ではないことがすぐに分かります。
自家用乗用車の世帯当たり普及台数(2024年3月末)
| 地域 | 台数 |
|---|---|
| 全国 | 1.016台 |
| 福井県(最多) | 1.685台 |
| 富山県 | 1.629台 |
| 山形県 | 1.624台 |
| 神奈川県 | 0.670台 |
| 大阪府 | 0.616台 |
| 東京都(最少) | 0.410台 |
東京都は2世帯に1台に届かず、福井県は1世帯に1.7台。夫婦それぞれに1台が当たり前なのは、通勤の足がほかにないからです。この1台がいくらかかるのかを、マネシムのファミリーカーの想定値(車両価格300万円・7年ごとに買い替え・下取り50万円・維持費年25万円)で出します。
25万円 + (300万円 - 50万円) ÷ 7年 ≒ 60.7万円/年
維持費(自動車税・車検・ガソリン。任意保険と駐車場は含まない)と、買い替えを織り込んだ車両費との合計1台で年60.7万円、2台なら年121.4万円。車を持たない暮らしから2台持つ暮らしへ移れば、家賃差の51.6万円は一撃で消えます。収入減まで重なれば、移住前より悪くなる。第二の分岐点が、この台数です。
検証記録: 同じ世帯を3通りの移住で引き比べる
ここまでの数字を1つの家計に載せます。世帯の構成・子どもの人数・暮らし方はそのまま、住む場所だけを変えた2つのプランを用意し、収入と車の持ち方を3通りに振りました。
東京23区から地方中核市へ移ったときの年間収支(概算)
| 項目 | 変化 | 家計への影響 |
|---|---|---|
| 家賃 | 月12万円 → 月7.7万円 | 支出が年51.6万円減る |
| 手取り収入(転職して地域水準になる場合) | 378.9万円 → 314.0万円 | 収入が年64.9万円減る |
| 車(0台 → 2台) | 夫婦それぞれ通勤に使う | 支出が年121.4万円増える |
| 合計: 収入が下がり車が2台 | よくある移住の形 | 年134.7万円の悪化 |
| 合計: 収入は維持・車1台 | リモート勤務で移住 | 年9.1万円の悪化 |
| 合計: 収入は維持・車なし | 公共交通で暮らせる地域を選ぶ | 年51.6万円の改善 |
年134.7万円の悪化から、年51.6万円の改善まで。同じ「地方移住」で、これだけ振れます。振れ幅を作っているのは収入を保てるかどうかと車の台数の2つで、物価水準はどの行にもほとんど顔を出していないのに、移住先を調べるときにまず引かれるのは家賃と物価のほうです。そこだけ見て決めると、この2つを見落とします。
ケースA: 東京23区の共働き世帯
- 家賃 月12万円
- 世帯の手取りは東京都の賃金水準(1人あたり額面484.4万円)
- 車なし・通勤は公共交通
- 子ども1人・保育園から大学まで公立
ケースB: 同じ世帯が地方中核市へ移る
- 家賃 月7.7万円
- 世帯の手取りは全国水準(1人あたり額面396.5万円)
- 車2台・1台あたり年60.7万円(車の欄は1台ぶんなので、価格と維持費を2台分にして入れる)
- 子ども・進路の条件はケースAと同じ
自分の場合はどうか。確かめるのは4つ
県平均の指数は入口にすぎません。自分の移住を計算するなら、次の4つを実際の数字で埋めます。
- 移住後の収入がいくらになるか(同じ勤務先を続けられるか、転職なら提示年収はいくらか)
- 車が何台必要か。駐車場代・冬タイヤ・買い替え周期まで含めて年額でいくらか
- 家賃または住宅価格の差が、実際に住む物件どうしでいくらか(県平均で代用しない)
- 光熱費が上がる地域かどうか(寒冷地は暖房費が大きく、東京より高くなる)
この4つが埋まれば移住が家計にとって得か損かは自分で出せますし、そうして並べてみると、物価水準の話は実のところいちばん影響の小さい部分だったと分かります。
よくある疑問
地方のほうが光熱費は安いのではないですか?
地域差指数で光熱・水道が最も高いのは北海道(119.6)、最も低いのは大阪府(87.0)で、東京都は全国平均を下回っています。暖房の需要が大きい地域へ移ると、光熱費は上がります。
リモート勤務で収入が変わらないなら、移住は必ず得ですか?
家賃差がそのまま残るので、有利にはなります。ただし車が増える分と、帰省や出張の交通費で目減りします。どれも年額に直してから比べてください。
子育ては地方のほうが安く済みますか?
教育の物価水準は大阪府と富山県で1.59倍で、費目のなかで地域差は最大です。ただし指数が測っているのは授業料や塾の価格で、実際の負担は進路の選び方(公立か私立か、自宅か下宿か)で決まります。大学進学で自宅を離れるなら、下宿費の負担は地方のほうが大きくなります。
住居の指数に持ち家は含まれていないのですか?
含まれていません。この指数の「総合」と「住居」は持家の帰属家賃を除いた集計です。持ち家で比べるなら物件価格と維持費で見る必要があり、それは住宅の記事で扱っています。
この記事の前提と限界
次の点は計算に反映していません。結果を読むときはこの前提を踏まえてください。
- 物価地域差指数は都道府県・都市単位の平均です。同じ県内でも都心部と郊外で住居費は大きく異なります。
- 賃金の比較は所定内給与額(月額)を12倍した粗い換算で、賞与・残業代・退職金の地域差を含みません。
- 車のコストはマネシムの既定値による概算です。駐車場代は都市部では別途大きく、地方では自宅敷地で不要になることもあります。
- 移住に伴う一時費用(引越し・住宅の購入や売却・自動車の購入)はこの比較に含めていません。
出典
- 総務省 消費者物価地域差指数 - 小売物価統計調査(構造編)2024年結果
都道府県別の総合指数、10大費目別の指数と寄与度。総合・住居は持家の帰属家賃を含まない
- 総務省 小売物価統計調査(構造編) 結果の概要
最新年の結果はここで更新される
- 厚生労働省 令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況
都道府県別の所定内給与額。全国計330.4千円、東京都403.7千円
- 自動車検査登録情報協会 自家用乗用車の世帯当たり普及台数(令和6年3月末)
全国1.016台、福井県1.685台、東京都0.410台
- 総務省統計局 家計調査(家計収支編) 調査結果
地方・都市階級別の家計収支
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