東京と地方、生活費はほんとうに違うのか(物価・収入・車で分解する)

最終更新: 2026-07-26

「東京は物価が高いから、地方に移れば楽になる」と言われます。一方で「地方は車が2台必要だし、給料も下がる」とも言われます。どちらも一般論としては正しく、どちらも自分に当てはまるかは分かりません。だから統計に載っている数字を、下がるもの・上がるもの・変わらないものに分けて数え直してみます。

この記事の結論

  • 物価の地域差は思っているより小さい。総合の指数は東京都104.0に対して最も低い群馬県が96.2で、最高÷最低は1.08倍しかない。
  • その差の約半分は住居。東京都の総合が全国平均を4.0上回るうち、住居の寄与が1.97。逆に光熱・水道は-0.31で、東京のほうが安い。
  • 収入も同時に動く。所定内給与は東京都が月403.7千円、全国計が月330.4千円。手取りに直すと年64.8万円の差で、家賃の差より大きくなりうる。
  • 車は最大の隠れ変数。世帯当たり普及台数は東京都0.410台に対し福井県1.685台。1台増えるだけで年約60.7万円の固定費になる。
  • つまり移住が効くのは「家賃差が大きく、収入を維持でき、車を増やさない」人。3つのうち1つでも崩れると差は消える。

この記事の内容

物価の差は総合で8%しかない

全国平均を100とした都道府県別の物価水準を総務省が毎年公表していて、2024年の結果がこれです。

消費者物価地域差指数の総合(2024年・全国平均=100)

都道府県指数
東京都(最高・12年連続)104.0
神奈川県103.3
鹿児島県96.4
群馬県(最低)96.2

最も高い東京都と最も低い群馬県の比は1.08倍。生活費が月30万円だとすると、同じ暮らしを群馬県で送ったときの差は月2万円強にとどまります。「東京は物価が高い」という体感の正体は、平均的な物価水準にはありません。次に見る特定の費目にあります。

この指数の「総合」と「住居」は、持ち家に住む人の家賃相当額(帰属家賃)を含まないので、賃貸で暮らす人の実感に近い指標になります。

差の中身はほとんど住居

東京都の総合指数が全国平均を4.0上回っているうち、住居の寄与が1.97を占めていて、つまり半分近くが家賃です。費目ごとに見ていくと、差はもっとはっきりします。

10大費目別の地域差(2024年・全国平均=100)

費目最も高い最も低い
住居東京都 127.2岐阜県 81.3
教育大阪府 125.1富山県 78.8
光熱・水道北海道 119.6大阪府 87.0
食料沖縄県 106.7長野県 95.8

住居は東京都と岐阜県で1.56倍、教育は大阪府と富山県で1.59倍の開きがある一方、食料は約1.11倍にとどまり、光熱・水道では東京都はむしろ全国平均を下回り(寄与度-0.31)、最も高いのは北海道です。「地方は光熱費が安い」という前提で移住を考えると、寒冷地では逆になってしまいます。

住居の指数をそのまま家賃に当てると、東京で家賃12万円の暮らしは、住居費が最も低い水準の地域なら月7.7万円相当になります。年間で51.6万円。これが移住で下がる金額の主役です。

12万円 × 81.3 ÷ 127.2 ≒ 7.7万円/月

住居の地域差指数を使った換算。実際の家賃は、同じ県内でも駅距離・築年で大きく動く

収入も一緒に下がる

支出だけを比べると移住は必ず得に見えます。ところが賃金の地域差は、物価の地域差より大きいのが実態です。2024年の賃金構造基本統計調査では、一般労働者の所定内給与額は東京都が月403.7千円、全国計が月330.4千円。全国計を上回るのは4都府県だけです。

所定内給与からの手取り概算(賞与を含まない)

東京都水準全国計水準
所定内給与月403.7千円月330.4千円
額面年収484.4万円396.5万円
手取り年収(概算)378.9万円314.0万円

手取りの差は年64.8万円。先ほどの家賃差51.6万円と同じか、それを上回ります。つまり「同じ仕事を地方でする」形の移住では家賃で浮いた分を収入減がほぼ食い切り、逆に収入を維持できる働き方(勤務地を変えないリモート勤務など)なら、家賃差はそのまま残ります。移住の損得を分けているのは物価ではなく、この1点です。

この換算は所定内給与だけを12倍したもので、賞与を含めると差はさらに開くので、実際の判断では転職先の提示年収をそのまま入れて計算してください。

誰も家計に入れていない「2台目の車」

移住の試算でほぼ必ず抜け落ちるのが車です。世帯当たりの普及台数で見ると、地域差は物価や賃金の比ではありません。

自家用乗用車の世帯当たり普及台数(2024年3月末)

地域台数
全国1.016台
福井県(最多)1.685台
富山県1.629台
山形県1.624台
神奈川県0.670台
大阪府0.616台
東京都(最少)0.410台

東京都は2世帯に1台未満、福井県は1世帯に1.7台。地方で「夫婦それぞれに1台」が当たり前なのは、通勤手段が他にないためです。マネシムの既定値(車両価格300万円・7年ごとに買い替え・下取り50万円・維持費年25万円)で1台あたりの年間コストを出すと、こうなります。

25万円 + (300万円 - 50万円) ÷ 7年 ≒ 60.7万円/年

維持費(自動車税・車検・ガソリン。任意保険と駐車場は含まない)と、買い替えを織り込んだ車両費との合計

1台で年60.7万円、2台なら年121.4万円。車を持たない生活から2台持つ生活に移れば、家賃差51.6万円は一撃で消えます。ここに収入減まで足せば、家計は移住前より悪化することもあります。

検証記録: 同じ世帯を東京と地方で引き比べる

ここまでの数字を1つの家計にまとめます。世帯の構成・子どもの人数・生活スタイルはそのまま。住む場所だけを変えた2つのプランです。

東京23区から地方中核市へ移ったときの年間収支(概算)

項目変化家計への影響
家賃月12万円 → 月7.7万円支出が年51.6万円減る
手取り収入(転職して地域水準になる場合)378.9万円 → 314.0万円収入が年64.8万円減る
車(0台 → 2台)夫婦それぞれ通勤に使う支出が年121.4万円増える
合計: 収入が下がり車が2台よくある移住の形年134.6万円の悪化
合計: 収入は維持・車1台リモート勤務で移住年9.1万円の悪化
合計: 収入は維持・車なし公共交通で暮らせる地域を選ぶ年51.6万円の改善

同じ「地方移住」で、年間の収支が悪化する場合と改善する場合の両方があります。分けているのは物価ではありません。収入を維持できるかと、車が何台必要かです。移住先の家賃だけを調べて判断すると、この2つを見落とします。

ケースA: 東京23区の共働き世帯

  • 家賃 月12万円
  • 世帯の手取りは東京都の賃金水準(1人あたり額面484.4万円)
  • 車なし・通勤は公共交通
  • 子ども1人・保育園から大学まで公立

ケースB: 同じ世帯が地方中核市へ移る

  • 家賃 月7.7万円
  • 世帯の手取りは全国水準(1人あたり額面396.5万円)
  • 車2台・1台あたり年60.7万円
  • 子ども・進路の条件はケースAと同じ

移住を検討するときに確かめる4つ

  • 移住後の収入がいくらになるか(同じ勤務先を維持できるか、転職なら提示年収はいくらか)
  • 車が何台必要か。駐車場代・冬タイヤ・買い替え周期まで含めて年額でいくらか
  • 家賃または住宅価格の差が、実際に住む物件どうしでいくらか(県平均ではなく)
  • 光熱費が上がる地域かどうか(寒冷地は暖房費が大きく、東京より高くなる)

この4つを入れれば、移住が家計にとって得か損かは自分で計算できます。物価水準の話は、実のところ最も影響の小さい部分でした。

よくある疑問

地方のほうが光熱費は安いのではないですか?

地域差指数では光熱・水道が最も高いのは北海道(119.6)で、最も低いのは大阪府(87.0)、東京都は全国平均を下回っています。暖房需要の大きい地域に移ると、光熱費は上がります。

リモート勤務で収入が変わらないなら、移住は必ず得ですか?

家賃差はそのまま残るので有利になります。ただし車が増える分と、帰省や出張の交通費で目減りします。年額に直して比べてください。

子育ては地方のほうが安く済みますか?

教育の物価水準は大阪府と富山県で1.59倍。地域差は費目のなかで最大です。ただし指数が測っているのは授業料や塾の価格で、実際の負担は進路の選び方(公立か私立か、自宅か下宿か)で決まりますし、大学進学で自宅を離れるなら地方のほうが下宿費の負担は大きくなります。

住居の指数に持ち家は含まれていないのですか?

含まれていません。この指数の「総合」と「住居」は持家の帰属家賃を除いた集計なので、持ち家で比べる場合は物件価格と維持費で見る必要があり、これは住宅の記事で扱っています。

この記事の前提と限界

次の点は計算に反映していません。結果を読むときはこの前提を踏まえてください。

  • 物価地域差指数は都道府県・都市単位の平均です。同じ県内でも都心部と郊外で住居費は大きく異なります。
  • 賃金の比較は所定内給与額(月額)を12倍した粗い換算で、賞与・残業代・退職金の地域差を含みません。
  • 車のコストはマネシムの既定値による概算です。駐車場代は都市部では別途大きく、地方では自宅敷地で不要になることもあります。
  • 移住に伴う一時費用(引越し・住宅の購入や売却・自動車の購入)はこの比較に含めていません。

出典

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本記事および本サービスの計算結果は、公的統計と一般的な制度に基づく概算であり、特定の金融商品の購入や投資判断を勧めるものではありません。税制・社会保障制度は改正されます。実際の手続きや判断にあたっては、一次情報および専門家にご確認ください。